赤坂の隠れスポット双子のライオン堂で思い出した大切な思い出のおはなし。
こんにちは。
先日、吉祥寺の大きな本屋さんで『本屋さんをうろつく楽しさ』を思い出してからというもの、なんだかいつもよりも意識して本を読んだり、ふらっと古本屋に立ち寄ったりすることが増えたみやべえ(家の本棚がだいぶ前にキャパオーバー)です。
最近地震が多くて高いところにいろんなモノを置いておくのが怖いので、家の中で最も幅を利かせているであろうあらゆる酒瓶や本を一時的に床を下ろしたのですが、低い位置に仕舞うスペースを作るのって、意外と難しいんですね。気づくと積み上げたくなっちゃう。結果、ノープランで床に下ろされたまま、発展途上国のビルのように高さ不順かつ不格好に積み上げられた本や雑誌を片づけなくては…という思いとは裏腹に、日々床からの本の高さだけが増していっております。
本棚の地震対策が目下の課題。
そんな昨日。
フロアの壁一面の窓からまだ夕日がキレイに見える時間に仕事が終わり、『さぁどこかに寄り道でもして帰ろうかなぁ』とPCを畳みかけた時、会社の同じチームの女性(長い髪の毛がいつもサラサラで素敵)から「本好きと思われるみなさんへ」というタイトルでこんなメールをもらいました。
赤坂でおもしろい本屋をみつけました。
少し離れているけど歩いていけますよ。
リンクと一緒に貼られていたのがこの写真。
本の形をした重厚な扉を開けて、靴を脱いで上がります。
私が行ったとき、店主さんは奥で気持ち良さそうに寝てました。
か、かわええええ!!!
本の形をしている扉もそうですが、店主さんが寝ているという激ゆるそうなあたたかい雰囲気をひしひしと感じて、今日の寄り道はここに行くことに決めました。
知らずに通りすがったら入るの勇気いりそうだし。
教えてくれた彼女に御礼を言って、出発。
目的地は、赤坂駅から徒歩5分ちょっと。
たまにおひるごはんで行くローストビーフ丼が美味しいお店の近くでした。
真っ青な扉の前に立つと、あら、ほんとにどこにも取っ手が無い。本を開ける…はずだけど、右側?左側?とあらかじめ写真を見ていたにもかかわらずいろんな面を引っ張ってみて、手前をめくるように空けると中に入れました。
扉をあけると目に飛び込んでくる本、本、本。6畳ほどのコンパクトな店内は壁一面をぐるりと本棚に囲まれているのですが、明るい白木の本棚の色と暖色系の蛍光灯の光が満ちていて、不思議と圧迫感もなく外見の入りづらさを忘れる程の明るさ。
いきなり本の世界に飛び込んだような、不思議な気分になります。
奥の小さなレジ机の向こうに座った麦の山高帽ををかぶった店主らしき方が「いらっしゃいませ」と声をかけてくれました。
双子のライオン堂さんは選書という『オススメされた本』をメインに扱う本屋さんらしく、天井近くまである本棚には、選書主の方の名前が彫られた木彫りの仕切り板とジャンルも大きさもバラバラな本がびっしり並べられています。
「選書主は店主がこの人!と思った方や、ご自身も作家さんの方などが多いんです。ライフネット生命の出口さんや編集者の方もいますねぇ」
と教えてくれたこの山高帽のお方は、店主さんのお父様とのこと。
ううむ。唯一名前の出たライフネット生命の出口さんもわからんぞ。。と申し訳ない気持ちになりつつも、本棚を眺めると、漢方の入門書、バクマン、全国の市(イチ)をまとめた本、手作り感あふれる個人出版のような本などなど、漫画から一般の大手本屋さんでは前面に出ないであろう本までセレクトが幅広くて面白い。
小さい店内を1時間ほどじっくり眺めてふと窓際の四角く抜かれた本棚に目をやると、一冊の懐かしい本に目が吸い寄せられました。
47都道府県の純喫茶 愛すべき110軒の記録と記憶。
私の中で、ちょっと特別な本。
この本を書いた山之内遼さんと出会ったのは、表参道にあるライブハウスに並ぶアイドルファン達の列の中でした。
知り合いのプロデュースしていたあるアイドルのデビューライブを応援しに行こう、と友人2人と待ち合わせしていた時に、たまたま片方の友人の友人として一緒に来てくれたのがすらっとした笑顔の爽やかな『遼くん』。「いやぁはじめまして今日はよろしくです」とか言いながら表参道の狭いライブハウスの一番後ろに立って、一生懸命歌と踊りと自己紹介を披露する若い女の子たちのアイドルデビューを一緒に見守る。という、ちょっと変わった出会いでした。
そのあと、せっかくだし一杯飲んで帰るかと、これまた小さなカフェに入って改めて自己紹介をしている時に、同年代であることや、初めて彼が本を書いていることを知りました。
純喫茶を求めて旅行したり記事を書いたりするのが楽しいんだよーと語る彼の純喫茶への愛は、淡々とした口調とは裏腹になかなかにアツくて、そこまで好きなものに正直になれるってかっこええなー!本読んでみたいなー!と素直に尊敬できる、すごく楽しい時間でした。
楽しかったよまた会おうねー!なんてメールでやり取りした数日後、会社のデスクにA4の茶封筒が届いていました。
送り主は遼くん。中には縦書きの便箋に手書きで書かれたお手紙と47都道府県の純喫茶の本と彼が集めたのであろう喫茶店のマッチが幾つか入っていました。
手紙には、先日のお礼と「マッチかわいいでしょ。使ってね。」という内容のメッセージ。
おおお。
ちゃんとすぐに本を送ってきてくれるなんてやっぱり素敵だなぁ。てかマッチほんとにレトロでかわいいなぁ。
早速メールでお礼の連絡をしかけたのですが、「いや、私もちゃんと手紙でお礼を書かねば」と思い直し。向かいのビルにレターセットを買いに行きました。
文通するなんて小学生以来だなぁ、なんて書こうかなぁ、なんてわくわく考えていた矢先。
遼くんが亡くなったらしい。
という無機質なメールが彼を紹介してくれた友人から届きました。
いやそんな馬鹿な。
つい昨日小包が届いたのに。
つい今しがた手紙書いてるのに。
最初は信じられなくて、どういうこと?と返信をすると、詳細はわからないけど、出張先の福岡で突然亡くなったらしい。との返事が。
そんな馬鹿な。
じわじわと集まってくる情報に、これは本当なのかもしれないと思いはじめてきても、ぐるぐると頭を巡るのはこの言葉だけでした。だって手元には、遼くんがついさっき送ってくれたような手紙やマッチがある。
信じられない。
数日後、友人から遼くんのお葬式の日程連絡をもらいました。
友達と呼ぶにはあまりに浅いかもしれないけど、行こうと決めました。
会社を抜け出して参列させてもらったお葬式には、遼くんのご友人や親族の方がたくさんいました。
みんな、泣いていました。
どうしても行きたいと駆けつけたものの、こういう早すぎる別れのお葬式は初めてだった私は、寿命を全うした自分の祖父や祖母のそれとは全く違う重い重い感情に満ちたその場に圧倒されて、棺の中の目を閉じた遼くんに白い花を添えながら、あぁ、ほんとうにこのままいなくなってしまうんだとぼんやり思うことしかできませんでした。
1度会って、アイドル見て、飲みながら話をしただけ。
昨日は楽しかったね、またみんなで集まって飲もうねと手紙をもらっただけ。
それでも、彼が突然いなくなってしまったという事実は私の中ですごく大きくて。泣き疲れて帰り道に寄った駅前のラーメン屋でラーメンをすすっている間も、『メールでもいいから少しでも早くありがとう、マッチ嬉しかったよって送っとけばよかった』とか、もっと純喫茶の魅力聞きたかったとかもうどうしようもない事が溢れてきて、ぽろぽろと涙が止まりませんでした。
それからしばらく、
私や私の大切な人だって、いつ死んでしまうかわからないんだという実感と、
亡くなっても彼の書いた本は残り続けるんだなぁ。という何かをカタチにして残すということへの感慨を、漠然と抱えて過ごしました。
今思えば、私がビジネスになるかなんてわからない温泉や銭湯のライターとして動き始めたのも、明日死ぬかもしれないと実感として持ちながら将来を考えるようになったのも彼のおかげだと思います。(あと、すぐお礼状が書けるように便箋を引き出しに忍ばせておくようになったのも。)
彼からもらったマッチはまだ未開封のまま、会社の引き出しに大切に保管しています。
ね、レトロでかわいいでしょう。
なんだか随分双子のライオン堂の話から逸れちゃったけど、彼の本が本屋さんの選書としてこの店の片隅にいた事が、とても嬉しくて、初心に帰れた気がしました。
ありがとう、双子のライオン堂。
またふらっと立ち寄って 、思い出の本や新しく出会う本を探しに行きたいと思います。
ではでは。